参照:
黒川亨子『「学校の常識」を法的観点から問い直す―人権教育を「砂上の楼閣」にしないために―』
立命館法學2021年5・6号(2022年)316頁以下 など。
子どもたちの安全を確保できない活動が、学校で行われることがある。
① トーチトワリング(長さ50~60センチの棒や木の先端にタオルを巻き付け、
灯油を染みこませて着火し、振り回しながら演舞する)
② 体育祭での巨大組体操
③ 危険な部活動(活動内容自体が危険、部活動を安全に実施する技量のない顧問教師の存在)などである。
※「安全を確保できない活動」「危険な部活動」について、
切り傷、擦り傷など、数日で完治するような軽度のけがのおそれまで、「危険」だから中止せよ、という趣旨ではない。
死亡や大けがの危険性があるもの、今後の人生において、長期間のまたは重度の後遺症が残る危険性があるものを
前提にしている。
①や②については、以前から大けがを負う危険性が指摘されている。
いくら教員研修を充実させたとしても、やけど事故を無くすことは不可能であり、
教員が巨大ピラミッドから崩れ落ちたり、その内部で下敷きになったりする子どもたちの身体の安全を、
必ず守れるようにはならない。
子どもたちの安全を確保できない活動に対する、法的観点からの常識は、以下の通りである。
まず、学習指導要領に記載があるかを確認し、ないのであれば、そもそもすべきでない。
少なくとも強制してはいけない。
すなわち、やりたくない自由を保障し、拒否しても不利益を受けないことを保障しなければならない。
次に、仮に、学習指導要領に記載があったとしても、憲法違反の行為でないか、人権侵害を招かないか、
安全を確保できるかどうかの確認が必要である。
これらの危険な活動を行うにあたり、学校側は、法的な安全配慮義務を負う
(民事上:損害賠償責任、刑事上:業務上過失致死傷罪)ため、
義務を十分担える体制になければ、そもそもやってはいけない。
また、比例原則(ある行政目的を達成しようとするとき、より規制の程度が軽
い手段を使うべき)に従えば、仮に、①および②の活動の目的が「連帯感・団結力を高める」ためであれば、
当該目的を達成するために、より危険でない方法(① 本物の炎のついた棒ではなく、LED ライトの棒に変更する、
② 巨大ピラミッドではなく、大けがの危険性がほとんどない集団演技を行う等)
を採用することになる。
部活動は、学習指導要領上、「教育課程外」の活動としての「学校教育の一環」であり、
「自主的、自発的な参加」で行われる活動である。
ゆえに、「教育課程内」の各教科の専門性は、大学における教員免許取得のための授業や
教員採用試験において制度上担保されている一方で、
「教育課程外」の部活動については、大学で部活動顧問として十分な技量を習得させる講義や実習は
開かれていないのが通常である。
勤務時間外(休日や平日の勤務時間開始前、同終了後)に、部活動指導の職務命令を
出すことはできない(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法6条)。
それゆえに、勤務時間外の部活動指導は、教員の仕事とはいえず、あくまで教員の自主的な活動である。
一方、勤務時間内であれば、理論上は部活動指導の職務命令を出すことができるものの、
法制度上残業ができない教員は、勤務時間内に、授業のほか、生徒指導や採点作業、
翌日以降の授業の準備や会議など、膨大な仕事量をこなさなければならない。
非常に多忙な教員に、勤務時間内での部活動指導の職務命令を出し、
部活動指導を強制することは、現実的ではない。
ゆえに、部活動指導は、教員の仕事ではない、といえる。
※なお、スポーツ庁(文科省の外局)も、以下のような見解を発表し、
「部活動指導をしたい教師」だけで部活動を運営することを前提とし、
部活動を設置しない選択肢もありうる、との立場を採る。
FAQ:スポーツ庁 (mext.go.jp) (2024/09/13最終確認)
--------------以下、スポーツ庁ウェブサイトより転記----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
Q16 教師は顧問を拒否することができますか。
勤務時間内における部活動顧問については、職務命令があれば担う必要がありますが、
勤務時間外において、部活動を行うことを教師に命じることはできません。
部活動指導をしたい教師だけでは部活動運営ができない場合、
校長は外部指導者や部活動指導員を配置などについて教育委員会等と調整するほか、
合同部活動の実施、部活動の地域クラブへの移行、
部活動を設置しないことといった判断をとることも考えられます。
---------------転記ここまで------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
以上により、部活動指導は、教員が主に勤務時間外に自主的に行う活動にすぎず、
また指導の技量を担保するものもない。
この位置づけが、以下の部活動顧問の在り方や部活動内容の検討に大きく影響する。
部活動の顧問について、水泳を安全に実施する技量のない教員が、水泳部の顧問になることは、
上述の安全配慮義務の観点から、あってはいけない。
パソコン部の顧問になったからパソコン研修を受けることと、水泳部の顧問になったからその研修を受けることは、
レベルの違う話である。後者の研修には、子どもたちの生命や身体の安全がかかっている。
研修さえ受ければ、どんな教員でも、子どもたちの生命や身体の安全を守れるようになるわけではない。
教員個人の努力や研修では、どうにもならない領域がある現実を直視しなければならない。
教員には、正規の仕事ではない部活動の指導力修得に、時間や労力を費やす義務もないのである。
2017年3月27日、栃木県那須町において、県内の7校の山岳部に所属する高校生と引率教員が参加した
「春山安全登山講習会(栃木県高等学校体育連盟登山専門部会主催)」において、雪をかきわけて進むラッセル訓練中に
雪崩が発生し、8名(高校生7名、引率教員1名)の死亡を含む甚大な被害が発生した。
登山部顧問らを対象に、栃木県教育委員会などにより開催された
2021年度「登山指導者講習会」の県山岳・スポーツクライミング連盟指導委員長の講義において、
「登山は自然が相手なので危険と隣り合わせ。私は命がけのスポーツだと思っている」との発言があり、
また、天気図の読み方、テーピング方法、緊急時の簡易テントの張り方などの実習が行われた、との
新聞記事(朝日新聞2021年7月19日朝刊21頁(栃木全県))がある。
しかし、登山が「危険と隣り合わせの命がけのスポーツ」なのであれば、
そもそも学校で行ってはいけない。
民法では、未成年者の行為能力が認められておらず、法律行為をする際には、
その法定代理人の同意が必要である(民法5条)。
未成年者は、契約のような法的義務を負う判断ができないのであるから、
「命をかける行為」の危険性判断は、到底できないはずである。
また「うちの子は、クラブ活動で死んでも構いません」という非常識な保護者の同意は、無効である。
登山が「命がけのスポーツ」なのであれば、登山部を廃止するか、または、
「命がけでない登山」に活動内容を変更して実施するか、のどちらかしかない。
登山部を存続させるのであれば、登山に素人の顧問の引率でも安全に実施できる
部活動の内容(例えば、ハイキングコースを歩く)に変えるか、
絶対に命を守れるプロの引率者を雇って実施することになる。
命がけのスポーツの研修を、素人の教員にしていること自体が誤りである。
素人の教員が簡易テントを張って、救助を待たなければならない可能性があるスポーツを、
学校の部活動として行ってはならない。クラブ活動の内容は、本質的に、子どもたちの生命や身体を危険に
さらすものではないことが、絶対に必要である。
したがって、事故対策として、このような研修を行うのではなく、
素人の教員の引率であっても、安全に実施できる部活動の内容を検討すべきである。
準備中
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