参照:
黒川亨子『「学校の常識」を法的観点から問い直す―人権教育を「砂上の楼閣」にしないために―』
立命館法學2021年5・6号(2022年)316頁以下 など。
以下は、すべて宇都宮大学の学生からの聞き取り結果である。
① 野球部員は、丸坊主でなければならない、
② 男子の髪は、耳や眉毛にかからない長さにせよ、女子のポニーテールは、耳より下の高さで結べ
③ (防寒用としてであっても)タイツを履いてはいけない、ひざ掛け、日傘の使用禁止など、
④ 下着や靴下の色は、白でなければならない、
⑤ 部活動において、後輩のみ多大な負担や不合理なルールがある(雑用、先輩への敬語、後輩は~してはいけない等)。
また、
⑥教員にブラック校則の不合理さや不当さを訴えても、教員が取り上げてくれなかった、曖昧に濁されてうやむやになった、
との意見もあった。すなわち、茨城県公立高校において、教員から「防寒着として、制服の上からセーターを着てもよいが、
カーディガンはダメ」と言われて、「なぜカーディガンではダメなのか? セーターとどう違うのか?」と抗議したが、
教員から理由の説明はなく、うやむやにされたとの訴えがあった。
さらに、髪型については、①部活動ではない、一般の学校生活においても、
以下のような不合理な指定があったとの訴えがあった(いずれも公立校)。
・前髪は短くせよ(教員が、生徒の前髪を額の上に押し付け、眉毛より短い長さか否かをチェックされた)。
・横の髪は、耳にかからない長さにせよ。
・ポニーテールは、耳より下の高さで結べ。
※ 宇都宮大学の「日本国憲法」の講義にて、自己決定権(憲法13条)の学習を行う際、
毎年のように、受講生より、以上のような苦情(?)が出る。
また、私が「髪型規制であっても、許される場合がある。例えば、授業でガスバーナーを使う理科の実験を行う際、
髪の毛に燃え移ったら大変危険だから、実験の際には長い髪はひとつにまとめなさい、と指導することは
許されるだろう」、「一方、『ツーブロックは禁止』という髪型規制は、禁止の根拠が不明」、と説明したところ、
「高校の先生が、先生(=私)のような説明をしてくれれば、なぜそのルールが必要なのか、妥当なのかが分かり、
納得できたのに・・・」という意見もあった。
①は、元・ゼミ生からの訴えである。
彼は、小さい頃から「野球少年は丸坊主が当たり前」との慣例に従って、何の疑問も持たず、
ずっと丸坊主だったとのこと。
高校に入学した当初も、当然ながら丸坊主だった。ところが、途中で顧問の先生が変わり、
髪型が自由になったとのこと。
いったん丸坊主にすると、野球をやっていないときでも、24時間「丸坊主」が強いられることになる。
野球少年にとっては、重大な影響があることなのに、顧問の先生の心(方針)ひとつで、
簡単に変更されるものなのか、とモヤモヤしていたとのこと。
また、なぜサッカー部の部員の髪型は自由なのに、野球部は「丸坊主」なのか、という疑問があったとのこと。
「丸坊主にすれば、野球のプレーに好影響を与えるため(ヒットが打ちやすいなど)」ではないことは明らかである。
そうであれば、プロ野球選手は、全員丸坊主にするはずだから。
以上のような「モヤモヤ」を抱えながら、宇都宮大学に入学し、
私の「日本国憲法」の授業を受講した際、
・髪型の自由は、自己決定権(憲法13条後段)として保障されること、
・もし公立学校の教員が、生徒に丸刈りを強制して、バリカン等で頭髪を切除したり、
丸刈りにしなければクラブ活動に参加させないといった不利益を課したりすれば、
違憲判決が出る可能性が高いこと
などを初めて知った、とのことであった。
※なお、当該学生は、3年次に私のゼミの所属となり、野球部員の髪型規制(丸坊主)について、
歴史的に、また法的に検討した卒業論文を執筆して、卒業した。
①~⑥のようなブラック校則、生徒指導や慣例は、
教員が子どもたちに憲法上の人権があることを知らず、
公務員である教員に憲法尊重擁護義務があることを知らないことに起因するものである。
また、「ルール(法律、校則など)」を作る際に守らなければならないルールを
知らないことに起因するものもある。
例えば、法律を作る際には、❶~❻のようなルールを守って作ることになっている。
❶ 法律は、国民の代表者による国会で制定する。
自分たちの代表者は、自分たちの人権を不当に侵害するような法律を作らないだろう、との担保である。
また、万一、不当な法律が成立すれば、そのような法律を作った議員を次の選挙で落選させて、
新しい議員による法改正を行う手段も用意されている。
❷ たとえ選挙で選ばれた国会議員の多数が賛成した法律であっても、
その法律の内容が憲法に反する場合には、無効である。
❸ 必要のない法律、不合理な法律は、そもそも作ってはいけない。
立法事実の存在を確認し、法律を作る必要性、合理性がある場合に限り、法律を作ることになる。
その他、
❹ 罪刑法定主義(犯罪と刑罰の内容は、あらかじめ法律で定めなければならない)
❺ 明確性の原則(法の文言は、明確に定めなければいけない)、
❻ 遡及処罰の禁止(後から作った法律を、制定前の行為に適用してはいけない)などもある。
以上の❶~❻は「ルール作りのルール」の代表的なものであるが、これらを守るだけでも、
ブラック校則、生徒指導、慣例問題は激減すると思われる。
すなわち、
❷❜ 憲法上の人権を侵害するような内容の校則や慣例はないか、
法的根拠のない内容を、子どもたちに強制していないか、
❸❜ 学校側が、子どもたちの自由や人権を制限する校則の、
必要性、正当性及び合理性を説明できるかの確認が必要である。
❹❜ 行為と罰則を規定する校則の場合、あらかじめその内容を示すことに加え、
行為と罰則がバランスの取れた内容になっているか(過度の人権制限になっていないか)などの確認や、
❺❜ 明確な文言になっているかの確認も必要である。例えば、「~中学校の生徒として
ふさわしい品位を維持すること」という校則は、何が生徒としてふさわしいのか、
品位とは何かが、法の文言上明らかであるとはいえない。
❻❜ 後で作られたルールを、制定前の行為に適用してはいけない。
そのような不意打ち処罰をすれば、❹であらかじめ示す意味がなくなるからである。
そして、校則の内容を、
❶❜ 学校が一方的に決定するのは不当であろう。
しかし、民主主義的観点を重視して、子どもたち自身で決めさせることにすれば、
未熟で法的知識のない子どもたちが、適切な内容かつ❷~❻のルールを守った校則を、
作ることができるのかという問題が、別途発生する。
それゆえ、現状の校則や慣例を検討し、新しい内容にする際には、
学校、子どもたち、保護者それぞれから、現状の校則の不満の聞き取りをしたり改正案を募ったりして、
それを❷~❻のルールに熟知する弁護士などの法律家に委ねて、新たな校則や慣例の見直し案を作成してもらうことが
妥当であろう。
そして、もし、新しい校則等に問題点があれば、変更することができる制度や、
仮に変更できない内容については、学校側がその存在理由や合理性を、子どもたちや保護者に
きちんと示す制度を作る必要がある。
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